北九州弁バージョン kitkyusyu dialect
「ボクのこと わすれちゃたの？ ─お父さんはアルコール依存症─」
ボクのお父さん
お酒を飲んだら・・・
こわくなるんよ・・・
お父さん・・・ボクのこと わすれたんやぁか
前は休みの日に キャッチボールをしてくれよったんやけど
今朝だって約束してくれたんやけど
やっぱウソやった
昼間（ひるまっ）からお酒のみよぉ
公園でみんな家族であそびよぉ
ボクは悲しくなって 家に帰るんよ
もう慣れたけ大丈夫
仕事の日
お父さんが帰ってきたら ボク胸がドキドキするんよ
お酒飲んで お母さんが途中でとめたらケンカになるんよ
最後は物投げたり もっとおっきい声でどなるんよ
ボクはこわいで声が出らん
お姉ちゃんはずっと前から お父さんと口きかん
酔っぱらったお父さんは 誰の言うこともきかん
おっきい声が となりの家にきこえんように ボクは急いで窓閉める
家ん中のことは誰にも言えん
ボクはときどき頭がいたくなる
ある日ボクは こそぉーっとお酒に 水を入れたんよ
やけどその夜も・・・どなり声がしよった
またケンカがはじまる
お母さんにげり
どぉしよー ボクが悪い子やけ
ゴメンナサイゴメンナサイ
ボクは自分の部屋で ココをギュッちして 歌うたった
ある夜 お父さんが外でお酒を飲んでたおれた
お母さんがあわてて出てった
おっきい病院に運ばれて そんまま入院した
どぉーしよー お父さん死ぬんやぁか？
ボクがココロの中でおねがいしたけ・・・
ボクのせいかも・・・
次の日 みんなでおみまいに行ったんよ
お父さんは何（なん）も言わんで 窓の外みよる
ボクはおもしろい話が思いつかん
みんなに笑ってほしいんやけど
シーンとしとる部屋に 先生が入ってきて言（ゆ）った
「お酒で肝ぞうが いたんでいます
このまま飲みつづけたら死んでしまいますよ」
「お酒をやめる専門の病院へ行きませんか」
お父さんは先生の顔をみらん
その日ずっとお父さんは何（なん）も言わんで
みんな だまったまんま家に帰った
「またお酒を飲んだらどぉーしよー・・・」
お母さんの背中が泣きよる
お母さんはいっつも お父さんのお酒のことばっかり・・・
ボクはすみっこににげた
こわい気持ちがあふれでてきた
お母さんに泣かんでほしいし
お父さんも死んだらイヤ
どぉーしよー・・・
こわい気持ちをどうにもしきらんで ボクは手紙をかいた
お父さんへ
ボクはお父さんに 死んでほしくないです
前みたいに 公園でキャッチボールがしたいです
大好きなお父さん
ハルより
ボクはちょっと考えてから お母さんに手紙をわたした
お母さんはやさしい顔で「ハルありがとう」っち言（ゆ）ってくれた
お父さんが病院から帰ってきた
「酒やめるけ」っち言（ゆ）って １週間お酒を飲まんかった
でも・・・
キャッチボールの約束しとった日に
お父さんはお酒を飲んだ
泣きながらお酒を飲みよる・・・
次の日、お父さんは
ボクの手紙をポッケに入れて
お母さんといっしょに 精神科の病院に行った
アルコール依存症病棟っちゅうところに入院した
お父さんが入院してから 家ん中は静かになった
ちょっとして お母さんは「家族会」っちゅうところに行くようになった
ある夜 お母さんはボクを呼んで お父さんの話をしてくれた
「お父さんはさ アルコール依存症っちゅう病気なんよ
お酒やめきらんのは病気なんよ」
「ハルのせいやないんよ」
「どなったりするこわいお父さんは 病気やったんよ
大切なハルとの 約束も守れんかったね」
悲しかったねっちゅって お母さんはボクの背中をさすってくれた
「お父さんはハルのこと 大好きやけ大丈夫よ」
「今は病院で先生とお話したり おんなじ病気の人と話したり勉強しとるんよ」
ボクは真けんにお話をきいた
お父さんがこわいお父さんになったり
ボクとの約束わすれとぉことも 病気やったんや
ボクのこと好かんくなったんやなかったんや
ボクはちょっとうれしくなった
しばらくして お父さんが病院から帰ってきた
「ただいま、ハル」
「お酒でみんなを悲しくさしてゴメンな
お酒やめてみるけ」
ボクはお母さんの顔をみた
やさしい顔をしとぉ
「これからは心配なことは 話して大丈夫やけね」
お母さんがゆった
お父さんは会社に行くようになった
ちがうのは・・・
会社の後でおんなじ病気の人たちとお話してから帰ってくる
お父さんはボクの手紙をお財布に入れとぉ
ボクはちょっぴり心配
やけどね
がんばっとぉお父さんをみて 前よりちょっとスキになったんよ
（おしまい）
