広島弁バージョン─ハルくん全国プロジェクト

広島弁バージョン Hiroshima dialect
「おれのこと忘れてしもーたん? ─お父ちゃんはアルコール依存症─

 


 

おれの家族
おとーちゃんとおかーちゃんと
ねぇちゃん
そして ココ

 

おとーちゃんはお酒を飲むとおかーちゃんとケンカばっかり

 

***

 

おれのお父ちゃん
お酒を飲むと
こわーなる

 

お父ちゃん
おれのこと忘れたんかのぉ?
前は休みの日にゃあ
キャッチボールをしてくれとったのに
今朝でも約束しとったのに
やっぱり,うそじゃった
昼間から酒を飲んどる
公園でよその人はみんな家族で遊んどる
おれは悲しゅうなって
家に戻るんじゃ
もう慣れたけぇ大丈夫

 

仕事の日,お父ちゃんが帰ってきたら
おれは胸がドキドキする
酒を飲んで
お母ちゃんが途中で止めたらケンカになる
しまいにゃー 物を投げたり
もっと大きい声でどなるんじゃー
おれはこおーて声が出ん
ねぇちゃんはずっと前から
お父ちゃんとは口をきかん

 

酔っぱろーたお父ちゃんは
誰の言うこともきかん
大きい声が
となりの家に聞こえんように
おれは急いで窓を閉める
 
家ん中のことは誰にも言えん
おれはときどき頭が,いとーなる

 

ある日 おれは
こっそりお酒に
水を入れた

 

じゃけど  その晩も・・・・どなり声がした
また ケンカがはじまる
お母ちゃんが にげて
どーしょうか
おれが悪い子じゃけー
ごめんのー ごめんのー
おれは自分の部屋で
ココをぎゅっとして
歌をうとーた

 

ある晩
お父ちゃんが外でお酒を飲んどってたおれた
お母ちゃんがあわてて出ていった
大きい病院に連れていかれて
そのまんま入院した
どーしたらええ
お父ちゃんは死ぬんかのぉ
おれがココロの中で
ねごうたから
おれのせいかもしれん

 

あくる日
みんなで見舞いに行った
お父ちゃんは何も言わんこーに
窓の外を見とった
おれはおもしろい話が思いつかんかった
みんなに笑ろうて欲しいのに

 

 
シーンとしとる部屋に
先生が入ってきて言うちゃった
「お酒で肝臓がわるーなっとる。
このまま飲み続けとったら
死んでしまうでー」
「お酒をやめる専門の病院に行っちゃったらどうですか」
お父ちゃんは先生の顔を見んかった
その日ずっとお父ちゃんは
何も言わんで
みんなだまったまま家に帰った

 

「またお酒を飲んだらどーしょうかー・・・」
お母ちゃんの背中が泣いとる
お母ちゃんはいっつも
お父ちゃんの酒のことばっかり

 

おれは端ににげた
こわい気持ちがあふれでてきた
お母ちゃんにも泣いてほしゅうないし
お父ちゃんも死んでほしゅーない
どーしたらええかのぉー
こわい気持ちをどうもできんで
おれは手紙を書いた

 

お父ちゃんへ
おれはお父ちゃんに
死んでほしゅうないです
前みたいに
公園でキャッチボールしてつかーさい
大好きな お父ちゃん
                ハルより

 

おれはちょっと考えてから
お母ちゃんに手紙をわたした
お母ちゃんは やさしい顔で
「ハル ありがとう」って 
ゆうてくれた

 

お父ちゃんが病院から帰ってきた
「酒はやめるけぇのぉ」とゆうて
1週間お酒を飲まんかった
でも・・・
キャッチボールの約束をしとった日に
お父ちゃんはお酒を飲んだ
泣きながらお酒を飲みょーる

 

あくる日 お父ちゃんは
おれの手紙をポッケに入れて
おかぁちゃんと一緒に
精神科の病院に行った
アルコール依存症病棟とゆうところへ
入院した
お父ちゃんが入院してから
家の中は静かになった
ちょっとしてから お母ちゃんは
「家族会」いうところへ
行くようになった

 

ある晩
お母ちゃんはおれを呼んで
お父ちゃんの話をしてくれた
「お父ちゃんはね
アルコール依存症ゆう病気なんよ
お酒が止められんのは病気なんよ」
「ハルのせいじゃないんよ」

 

「どなったりしよーた こわいお父ちゃんは
病気だったんよ,大切なハルとの
約束も守れんかったしね」
悲しかったんよねと言うて
お母ちゃんはおれの背中をさすってくれた
「お父ちゃんはハルのこと
大好きじゃけー大丈夫じゃけーね」
「今は病院で先生と お話ししたり
同じ病気の人と話をして勉強しよーるんよ」
おれは 真剣にお話をきいた

 

お父ちゃんがこわいお父ちゃんに
なったり
おれとの約束を忘れたんも
病気じゃったんじゃ
おれのことキライになったんじゃなかったじゃ
おれはちょっとうれしゅうなった

 

しばらくしよーたら
お父ちゃんが病院から帰ってきた
「ただいま,ハル」
「お酒でみんなを悲しゅうさせてゴメンのぉ
お酒をやめてみるけぇのぉ」
おれはお母ちゃんの顔をみた
やさしい顔をしとって
「これからは心配なことは
話して大丈夫じゃけぇね」
お母ちゃんが言うてくれた

 

お父ちゃんは会社に行くよーになった
ちがうんは・・・
会社の後でおんなじ病気の人らと
話をしてから帰ってくる

 

お父ちゃんはおれの手紙をお財布に入れとる

 

おれはちょっと心配
じゃけど
がんばっとるお父ちゃんをみて
前よりちょっとスキになったんじゃ

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