福井弁バージョン Fukui dialect
「ボクのことわすれちゃったの?─お父さんはアルコール依存症─」
福祉系の大学生エミさんが卒論作成の一環として、依存症のご本人(父・ヤスシさん)と娘さんの翻訳で、ハルくん全国プロジェクトへ参加してくれました。最初、娘さんだけにお願いしていましたが、お父様も協力してくださり、年代で使う方言が違うという話となり、それならと2つの翻訳の福井弁バージョンができました。
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「絵本に出会って子供の頃を追体験できました。絵本の翻訳作業を一緒にすることで改めて父の話が聞けてよかったです。」ヤスの娘
「ハルくんの家は家(うち)と同じ。家(うち)は明るく楽しくなりましたがお父さんとお母さんはギクシャクしています。後遺症かな~。」ヤスシ(娘さんに向けて)
「福井県方言バージョンを掲載して頂けること、とても嬉しく思います。ヤスシさんや娘さんのもと、作成することができました。福井県でハルくんと同じ境遇の子供たちに届くことを願っています。」エミ
「絵本を通して、一言では言い表せない親の思い、子の思いが再び時を超え、「今ここで」まじわる姿に密かに胸が熱くなっていました。翻訳に協力いただいたヤスさん親子に感謝です。」ナオ(教員)
「ヤスの娘」さんバージョン
ボクのお父さん
お酒飲むと…
こわくなるんや…
お父さん… ボクのことわすれてもたの?
前は休みの日に キャッチボールしてくれたがー
今朝だって約束してくれたがー
やっぱりウソやった 昼間からお酒飲んでるやろ
公園でみんな家族で遊んでるがー
ボクは悲しなって
家に帰るんや
もう慣れたで大丈夫
仕事の日、お父さんが帰ってくると
ボクは胸がドキドキするんや
お酒飲んで
お母さんが途中でとめるとケンカになってまう
しまいには物を投げて
もっとでっかい声でどなるんや
ボクはこわくて声が出んのや
お姉ちゃんはずっと前から
お父さんとしゃべらん
酔っぱらったお父さんは
誰の言うこともきかん
大きな声が
となりの家にきこえんように
ボクは急いで窓を閉める
家の中のことは誰にも言えん
ボクはときどき頭いとなるんや
ある日ボクは
こっそりお酒に
水を入れた
ほやけどその夜も…どなり声がした
またケンカがはじまるがー
お母さんにげて
どうしよう
ボクが悪い子やから
ゴメンナサイゴメンナサイ
ボクは自分の部屋で ココをギュッとして
歌をうたった
ある夜
お父さんが外でお酒を飲んでたおれた
お母さんがあわてて出ていった
でっかい病院に運ばれて
そのまま入院した
どうしよう
お父さん死んでまうんか?
ボクがココロの中で
おねがいしたでか...
ボクのせいかも...
次の日
みんなでおみまいに行った
お父さんは何も言わんと
窓の外をみとる
ボクはおもっしぇ話が思いつかん
みんなに笑ってほしいんやのに
シーンとしとる部屋に 先生が入ってきて言った
「お酒で肝臓がいたんどる このまま飲みつづけたら死んでしまいますよ」
「お酒をやめる専門の病院へ行きませんか」
お父さんは先生の顔をみん
その日ずっとお父さんは 何も言わんくて
みんなだまったまま家に帰った
「またお酒飲んだらどうしよう・・・」
お母さんの背中が泣いとる
お母さんはいつも
お父さんのお酒のことばっかり・・・
ボクはすみっこににげた
こわい気持ちがあふれでてきた
お母さんに泣いてほしくないし
お父さんも死なんといて
どうしよう・・・
こわい気持ちをどうにもできなくて
ボクは手紙をかいたんや
お父さんへ
ボクはお父さんに 死んでほしくないです
前みたいに 公園でキャッチボールしたいです
大好きなお父さん
ハルより
ボクはちょっと考えてから
お母さんに手紙をわたした
お母さんはやさしい顔で
「ハルありがとう」って
言ってくれた
お父さんが病院から帰ってきた
「酒やめるから」と言って
1週間お酒を飲まんかった
でも…
キャッチボールの約束をした日に
お父さんはお酒を飲んだ
泣きながらお酒を飲んどる
次の日、お父さんは
ボクの手紙をポッケに入れて
お母さんといっしょに
精神科の病院へ行った
アルコール依存症病棟というところへ
入院した
お父さんが入院してから 家の中は静かになった
少ししてお母さんは
「家族会」というところへ 行くようになった
ある夜
お母さんはボクを呼んで
お父さんの話をしてくれた
「お父さんはの
アルコール依存症という病気なんや
お酒がやめられんのは病気やからなんやよ」
「ハルのせいじゃないんや」
「どなったりするこわいお父さんは
病気だったん、大切なハルとの
約束も守れんかったね」
悲しかったねといって
お母さんはボクの背中をさすってくれた
「お父さんはハルのこと
大好きやから大丈夫やよ」
「今は病院で先生とお話ししたり
同じ病気の人と話をしたり勉強してるんや」
ボクは真けんにお話をきいた
お父さんがこわいお父さんになったり
ボクとの約束わすれちゃうことも
病気やったんや
ボクのことキライになったんじゃなかったんや
ボクは少しうれしくなった
しばらくして お父さんが病院から帰ってきたんや
「ただいま、ハル」
「お酒でみんなを悲しくさせてもてゴメンな
お酒やめてみるで」
ボクはお母さんの顔をみた
やさしい顔をしとる
「これからは心配なことは 話して大丈夫やで」
お母さんが言った
お父さんは会社に行くようになった
ちがうのは・・・
会社の後で同じ病気の人たちと
お話ししてから帰ってくる
お父さんはボクの手紙をお財布に入れとる
ボクはちょっぴり心配
そやけど
がんばっとるお父さんをみて
前より少しスキになったんや
ヤスシさん(父)バージョン
ウラんとこのとうちゃん
酒を飲むと…
おとろしいんやゾ…
とうちゃん…
ウラのことわすれてしもたんけ?
前は休みの日にキャッチボールをしてくれたの~
今朝やって約束してくれたんやけど やっぱウソやった
昼間っから酒のんでる
公園でみんな家族であそんでる
ウラはなさけのなって
家に帰るんや
もう慣れつんたで、もうなんともないんや
仕事の日、とうちゃんが帰ってくると
ウラは胸がドキドキするんや
酒飲んで
かあちゃんが途中でとめるとケンカになるんや
しまいには物を投げたり
もっとでっかい声でがなるんや
ウラはおとろして声が出ん
ねえちゃんはずっと前から
とうちゃんとしゃべってえん
酔っぱらったとうちゃんは
誰の言うこともきかん
でかい声が
となりのうちにきこえんように
ウラは急いで窓を閉めるんや
うちの中のことは誰にも言われん
ウラはときどき頭がいとうなる
ある日ウラは
こっそり酒に
水を入れたんや
ほやけどその晩もがなり声がしたんや
またケンカがおっぱじまる
かあちゃん
逃げねネ!
どしたらいいんやろ
ウラがあかん子やで
ゴメン ゴメン
ウラは自分の部屋で
ココをだきしめて
歌うとた
ある晩
とうちゃんが外で酒飲んでたおれた
かあちゃんがあわてて出ていった
大きな病院に運ばれて
そのまま入院してしもた
どうしよう
とうちゃん死んでしまうんけ?
ウラがココロの中で
おねがいしとったから・・・
ウラのせいかも・・・
次の日
みんなでみまいに行ったんや
とうちゃんはなんも言わんと
窓の外見とる
ウラはけっさくな話が思いつかん
みんなに笑ってほしいのに
シーンとしとる部屋に
先生が入って来なさって言うた
「酒で肝臓が痛んどる このまま飲み続けたら 死んでしまうざ」
「酒を止めるための専門の病院へ行かんか?」
とうちゃんは先生の顔を見ん
その日ずっととうちゃんは なんも言わんくて
みんなだまったままうちに帰った
「また酒飲んだらどうしよう…」
かあちゃんの背中が泣いとる
かあちゃんはいつも
とうちゃんの酒のことばっか…
ウラはすみっこににげたんや
おとろしさがあふれでてきた
かあちゃんに泣いてほしないし
とうちゃんも死んでほしない
おとろしいのがどもならんで
ウラは手紙を書いたんや
とうちゃんへ
ウラはとうちゃんに
死んでほしないんや
前みたいに
公園でキャッチボールがしたいんや
大好きなとうちゃん
ハルより
ウラはちょっと考えてから
かあちゃんに手紙をやったんや
かあちゃんはやさしい顔で
「ハルありがとう」って
ゆうてくれた
とうちゃんが病院から帰ってきた
「酒やめるさけな」とゆうて
1週間酒を飲まなんだ
ほやけど…
キャッチボール約束した日に
とうちゃん酒飲んだんや
泣きながら酒飲んどる…
次の日、とうちゃんは
ウラの手紙をポケットに入れて
かあちゃんといっしょに
精神科の病院に行ったんや
アルコール依存症病棟というところへ
入院したんや
とうちゃんが入院してから
うちの中は静かになった
しばらくしてかあちゃんは
「家族会」というところへ
行くようになった
ある晩
かあちゃんはウラを呼んで
とうちゃんの話をしてくれた
「とうちゃんはね
アルコール依存症という病気なんやって
お酒がやめられないのは病気なんやって」
「ハルのせいじゃないんや」
「がなったりするおとろしいとうちゃんは
病気やったんや、大切なハルとの約束も守れなんだし」
「悲しかったな」というて
かあちゃんはウラの背中をなでてくれた。
「とうちゃんはハルのこと大好きやで大丈夫や!!」
「今は病院で先生と話したり、
同じ病気の人と話したり、勉強してるんや・・・」
ウラは真けんにお話を聞いた。
とうちゃんがおとろしいとうちゃんになったり
ウラとの約束忘れてしまうのも
病気やったんや・・・
ウラのことキライになったんでなかったんや・・・
ウラはちょっこしうれしなった
しばらくして
とうちゃんが病院から帰ってきた
「ただいま、ハル」
「お酒でみんなをもつけねぇめに合わせてゴメンな
お酒やめてみるさけな」
ウラはかあちゃんの顔を見た
やさしい顔しとる
「これからは心配なこと話してもなんともないからの」
かあちゃんがゆうた
とうちゃんは会社に行くようになった。
ちがうのは…
会社の後で同じ病気の人たちと
お話してから帰ってくる
とうちゃんはウラの手紙をお財布に入れてる
ウラはちっと心配
ほやけど
がんばっているとうちゃんをみて
前より少しスキになったんや・・・
(2016.12)